珈琲は最終的にコーヒーの成分を水(お湯)に溶かして飲むわけですが、コーヒーには美味しい成分もあれば好ましく無い成分も含まれています。ところが、都合の良いことに美味しい成分は比較的水に溶けやすく、好ましくない成分は溶けにくいことから、この性質の違いを利用して珈琲を抽出します。
珈琲の淹れ方には様々な方法がありますが、基本的には透過法(とうかほう)と浸漬法(しんしほう)とに大別出来ます。一般にネル、ペーパードリップなどは透過法に、イブリク、サイホン、コーヒープレスは浸漬法に分類されますが、ここではもう少し突っ込んで考えてみたいと思います。
透過法 | 浸漬法 |
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透過法と浸漬法の違いを抽出状態における粉と水(お湯)の比率や状態で考えると、ペーパードリップ、あるいはネルドリップもお湯の注ぎ方によって透過法と浸漬法に分けることができます。
ある物質が他の物質(液体)に溶けるとき、前者を溶質、後者を溶媒といいます。一般に特定の温度においてある溶質が100gの溶媒に溶けこむ限界の量を溶解度と言い、この時の溶液を(その溶質と溶媒の)飽和溶液と呼びます。
水は優れた溶媒でその特性から酸素(O2)や二酸化炭素(CO2)などの気体、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの他殆ど全ての金属、塩化ナトリウム(NaCl)や塩化カドミウム(CdCl2)などの塩※1、さらにはショ糖(砂糖)やアミノ酸などの極性を持つ有機物※2まで溶かし込みます。
NaClやCdCl2などの陽イオン(Na+、Cd2+)と陰イオン(Cl-)が電荷を中和する形で生じた化合物の総称を塩と言います。塩を構成する結合には陽イオンと陰イオンの間の静電引力により形成されるイオン結合がメインなもの、特定イオン間に共有結合性を帯びた静電力がはたらく場合などがあります。
他にもアルカロイドなどの有機塩基と酸の付加化合物も塩と言います。
カルボキシ基(-COOH)や水酸基(-OH)などの官能基を多く持つものは、水溶液中で極性を示します。
通常、溶解度は水酸化カルシウムなどの例外を除き、温度に比例して大きくなります。このことは温度が高いほど溶解するスピードが速いと言えます。
特定温度におけるある溶質の飽和溶液において、その溶質はそれ以上溶けることはありませんが、違う溶質であれば溶けることもあります。
とはいえ、飽和溶液とまでいかなくても多くの溶質が溶け込んでいる状態では溶けるために必要な水分子の数が少なくなっていますので、他の溶質が溶ける余裕も少なく、時間が掛かります。
珈琲を淹れるというのは前述したように各々の成分の溶解度の違いを利用したものです。美味しい成分は比較的溶解度が高く、好ましくない成分は溶解度が低い傾向にあります。この性質の違いを利用するためには大別して2つの方法があります。
常に濃度の高い状態を作り出し、溶解度の低い物質を溶け出しにくくしながら抽出する方法。透過法はこれに当たります。
溶け出す時間の差を利用するもの。必要十分なお湯の量を短い時間に加え、雑味が溶け出す前にろ過する方法で、浸漬法にあたります。
ペーパードリップを使用し、透過法と浸漬法の違いを模式したのが下記の図になります。
灰色の丸がコーヒーの粉を表し、含まれている成分を溶解度の違いから緑、黄、赤の丸で表しています。なお溶解度(溶解する早さ)は「緑>黄>赤」とします。
透過法1
ドリッパーの中を常に濃度の高い状態にして溶解度の高い成分を優先的に抽出する。抽出にかかる時間は比較的長めになる。
一般にネルドリップやカリタなどで用いられる。
透過法2
1投目、蒸らしの段階
1投目と2投目を分けずに行うパターンもある。
透過法3
2投目以降、抽出段階。蒸らしのラインを超えないようにお湯の量をコントロールする。
注ぐ量とドリッパーに落ちる量を同じにする場合と何度かに分けてお湯を注ぐパターンがある。
透過法4
まず、溶解度の高い成分が溶け出し、ドリッパーの中は高濃度の状態になる。
透過法5
ドリッパーの中は常に濃度の高い状態にあり、溶解度の低いものはあまり溶け出す事が出来ない。お湯を注ぐことで薄まった分、順次成分が溶け出す。
透過法6
抽出の完了。
コクが出やすい一方、抽出に時間が掛かるため雑味が出ることもある。ただし、この雑味が豆の特徴となって比較的豆の個性を感じやすい。
抽出後の粉はわずかに中央が窪んだ状態が一般に好ましい。
浸漬法1
ドリッパーの中に十分なお湯を注ぎ、溶解度の高い成分を短時間で抽出する。お湯の温度が高かったり抽出に掛ける時間を長くすると顕著に雑味が増える。
所謂メリタ式はこの方法。
浸漬法2
1投目、蒸らしの段階
蒸らしを行わずに、初めから抽出するパターンもある。
浸漬法3
2投目以降、抽出段階。十分な量のお湯を注ぐ。数回に分けて注ぐ場合は2投目のラインを超えないようにする。
浸漬法4
溶解度の高い成分がすばやく抽出される。溶解度の低い成分は時間的余裕が無く溶け出し難い。
浸漬法5
時間を掛けると雑味の成分が溶け出してくる。またお湯の量が多いと薄めの珈琲になるので注ぐ量の見極めが大切。
お湯の注ぎ方にはドリッパー内に常に一定の量を保つ方法と、ある程度抽出されてから繰り返し注ぐ方法がある。
浸漬法6
抽出の完了。
雑味は少なくあっさりした味になりやすい。味が薄めになりやすいので粉は細めにするか、多めに使用する。
抽出後の粉はフィルター内に均一な壁を作っているのが一般に好ましい。
同じペーパーフィルターを使用してもお湯の注ぎ方一つで味が変わってきます。現実には豆の種類や焙煎方法、豆の挽き方、お湯の温度や水の質など、様々な要素が絡んできますし、更には個人の好みもありますので『この方法がベスト』と結論付けることは出来ないと思います。
『珈琲の淹れ方』というのは自家焙煎と共にお店の個性を出すのに一役買っているわけですが、お店で飲んだ珈琲は美味しかったのに豆を買って自宅で淹れた珈琲が今ひとつだったという経験を持つ方もいらっしゃると思います。
大抵、自家焙煎珈琲店では焙煎したコーヒー豆の試飲をそのお店独特の方法(透過法のペーパードリップ、浸漬法のペーパードリップ、ネルドリップ、サイホンなどなど)で行っているはずですので、その方法でベストとなるように焙煎を持って行っていると想像できます。ですから、お店で試飲してコーヒー豆を購入するような場合は、お店でどのような淹れ方をしていたか気をつけた方が良いでしょう。
もっとも普通は品質が高いコーヒー豆であればどのような淹れ方をしても高いアベレージを出すと思います。なお、ブラジルなどのコーヒー鑑定士が行うカップテストは、挽いた粉を器に入れ、沸騰したお湯を注いでその上澄み液をスプーンですくい、味と香りを見るという実に単純なものですが、淹れ方の差が出ない分、豆の品質を見るための試飲の方法としては非常に理に適っていると言えます。
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2005/01/11 | : | 新規作成 |