焙煎は基本的に生豆に熱を加える作業ですので、ただ焙煎するだけなら非常に簡単です。ご家庭でも焙烙(ホウロク)や手網※などの道具と、生豆、ガスコンロなどがあれば簡単に実践できます。
※銀杏や大豆などを炒るための取っ手のついた金製の網(ザル)。ホームセンターなどで売っています。(手網という言い方は正しくないかもしれません。)
手網焙煎と私は言っていますが、手網焙煎を趣味でやっているうちに自家焙煎コーヒー店をやり始めた、という方も結構いらっしゃると聞きます。(私もその一人です)
自家焙煎珈琲店でよく使用されている5kg釜の本格的な焙煎機は200万円前後しますが、手網焙煎ならばほんのわずかな出費でオリジナルのコーヒーを創ることができます。味的には業務用焙煎機に比べ安定はしませんが、その『ブレ』の大きさが稀にとんでもなく美味しい珈琲を生み出すことがあります。業務用焙煎機でも毎回微妙なブレはありますが、大抵操作上の許容範囲に収まってしまうので、手網焙煎のような奇跡は滅多に起こりません。
是非皆さんもチャレンジしてください。ただし台所がチャフで汚れますので、叱られないように・・・
手網焙煎の場合は安定した味を出すのは難しいのですが、『飲める珈琲』にするためのポイントがいくつかあります。趣味の範囲で気楽にやって欲しいので本来ならあまり難しいことは言わない方が良いのでようが、あるていど焙煎の傾向と味の特徴を知っていたほうが良いと思います。
焙煎の度合い(深さ)で苦味や酸味などの強さはある程度決まってきます。一般に浅いローストでは酸味が強く、深いローストでは苦みが強くなります。
香りは浅煎りから深煎りにかけて徐々に変化し、(好みにもよりますが)中煎り〜中深煎り(ハイ〜シティーロースト)でピークを迎えます。
コクと甘味については、どのロースト具合が良いとは一概にいえません。熱の加え方、水分の抜き方で変わってきます。
(手網焙煎にて、もっとも無難なシティーローストまで焼く場合)
同じシティーロースト(2ハゼ直前)でも蒸らしを含めた煎り始めから焙煎終了終まで10分を切るような高温短時間で焼いたものは、コーヒーの酸味の成分である有機酸が分解されずに多く残り酸味が強めに出ます。
蒸らしの段階を過ぎ本格的に熱を加え始めてからシティーローストまで焼き上げるのに25分(蒸らしの時間は含めません)を超えるような低温長時間の焙煎では好ましい成分の損失も多く、内部の炭化も始まるために平坦で味気なく舌の奥に残る苦味が出やすくなります。
一般に同じローストまで焼き上げる際、時間が短めのものは良くも悪くも豆の個性が強めにでて、長めの場合は豆の個性が弱まる傾向があります。
通常シティーローストまで焼き上げるのに蒸らしの段階を過ぎてから10〜15分前後で終了できれば概ね良好な味になります。
網は絶えず前後左右にゆすり、時々上下にあおって(フライパンを返すように)焼きムラが出来ないようにします。
コーヒーの焙煎は炎で豆を『焼く』ものではなく、熱を加えて成分の化学変化を起こさせるものです。なるべく炎が豆に直接当たらないようにして下さい。
手網焙煎には文字通り金網を使用したものと焙烙やフライパン、空き缶から自作したもの、珈琲焙煎専用品などの金属やセラミックで覆われたものの2種類あります。どちらにも一長一短があるのですが、自然な蒸らしや排気、温度のコントロールのことを考えると手網の方が無理なくローストできるので初めての方にはお勧めできます。
豆に熱を加える方法には温められた空気による伝熱、温められた金属に触れることによる熱伝導、遠赤外線などの輻射熱による放射伝熱、燃焼状態にある高温のガス(雰囲気)による酸化あるいは還元を従う伝熱や放射伝熱などがあります。
業務用焙煎機の場合、これら熱の加え方は焙煎機それぞれの方式によってほぼ決定されてしまいますが、手網焙煎の場合は様々な方法を選ぶことができます。コンロにセラミックの網を置くなどの熱源の工夫も含め色々試してみるのも面白いと思います。
準 備 |
焙煎の準備です。 コンロは撮影の為カセットコロンを使用しましたが、普通のガスコンロの方が火力が安定していて良いです。 焙煎の最中は換気に気をつけるようにしたいのですが、風があると炎が安定しないので注意してください。 写真の手網は私が大学生の時に市販の手網が手に入らなかったため金ザルに取っ手をつけて自作したものです。最近取っ手を付け替えましたけど、かれこれ16、7年の付き合いです(ここ数年は使っていませんでしたが) ホームセンターなどで購入できるものは平べったい形のもので網の蓋がついており焙煎の最中に豆がこぼれなくて良いのですが、チャフと呼ばれる薄皮を取り除くことができないので、出来たら取り外してください。 写真左下にある魚の焼き網はセラミックのコーティングがしてあるもので、炎の高さを制限し高温の雰囲気を形成すると共に、遠赤外線による輻射熱で熱エネルギーを効率よく豆に加えることが出来るためお勧めです。 |
※ドライヤーは焼きあがった豆の冷却に使用します。なければ扇風機や団扇でも構いません。 ※焙烙など風通しの悪く器具自体が冷めにくいもので焙煎する場合、煎りあがった豆をすばやく冷却できるようにザルなどを用意しておいたほうが良いです。 |
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ハ ン ド ピ ッ ク |
生豆を選別します。お店ではコストの面から徹底したハンドピックはできませんが、せっかくですから思い切ってハンドピックしてください。 今回はコロンビアSPのニュークロップ(当年もの)を100g使用しましたが、水分量が少ないパーストクロップやオールドクロップの方が焼ムラが出にくく焙煎しやすいと思います。 手網の場合、100〜150g位が無理なく焙煎できる豆の量です。 コロンビアは味の幅が広く大きな失敗のすることのない豆ですが、比較的硬めの豆ですので少々焙煎し難いかも知れません。 またウォッシュドよりもナチュラルの方が大抵水分量が少なくかつ火の通りが良いのでそのような銘柄を選んだ方が良いかもしれません。ただし、ナチュラルの代表的な銘柄であるモカ・マタリは通常でも全体の煎りムラ※が出る豆ですので、慣れないうちは適切に焙煎できているか分かりにくいのでお勧めできません。 ※全体の煎りムラ 煎りムラには2種類あります。一つは焙煎した豆全体を見たとき、浅煎りのものや深煎りのものが混在していた場合や、豆の表面が一部黒く焦げていた場合など、パッと見た目で分かるものです。 もう一つは豆を割って見たときに、豆の表面と内部の煎り具合が極端に違うものです。 |
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火 力 の 調 整 |
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火力は強火と中火の中間くらいにします。 初めに火力を設定したら、焙煎の最中は火の調整を行いません。手網と火の距離で調整します 最大火力が不足しないように強めの火にしてください ちなみに左の写真における手の位置は、熱さに我慢できる限界の高さ(火力)です |
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蒸 ら し |
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まずは蒸らしです。熱源から20cmほど離した弱火で豆を柔らかくして火の通りを良くします。成分の加水分解も行われると想像されます。 この段階でいきなり強火で煎ると渋みや雑味がでますので注意してください。 手網は絶えず左右に振り、時々上下を返すようにあおりますが、このときの感触と音に注意していてください。 |
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乾燥 |
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豆を振る音が柔らかくなり、豆が白っぽくなったら蒸らしの完了です。手網を振る感触も少し軽く感じます。 手網を熱源から約15cmくらいの高さまで下げて豆の水分を抜いていきます。豆の水分量が多いまま次の温度帯を超えてしまうと渋みと強い酸味が出やすくなります。この段階でしっかりと水分を抜いてください。 またチャフが出始めますので、時々煽ってチャフを取り除いてください(←下の写真) |
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本 焙 煎 そ の 1 |
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豆が薄い小麦色状に色づき豆の水分が抜けたら本焙煎に入ります。豆の表面には皺が入り、縮んで見えます。 手網を約10cmの位置まで下げ、十分な熱を加えます。 このあたりから煙も出始めチャフも盛んに飛び散るようになります。また焼きムラが出やすくなりますので手網をゆする手を止めないようにします。 |
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本 焙 煎 そ の 2 |
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豆の色が更に濃くなりいっそう縮んで見えたら1ハゼの手前です。この段階でカロリーが不足すると良い珈琲にならず豆のふくらみも悪いので更に手網を熱源から5〜7cm程に下げて火力を上げます。 焼きムラが出やすいので一層激しく手網を振ってください。もし焼きムラが出そうならば熱源から手網をほんの少し遠ざけます。 チャフが盛んに出ますので上手に煽って取り除いてください。 |
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1 ハ ゼ |
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バチ、バチ、と大きな音がし始めたら1ハゼの開始です。十分に熱を加えるようにしますが、火力が強いので豆が焦げやすく注意が必要です。 とにかく盛んに手網を左右にゆすり、細かく煽って豆の上下を返します。 このとき良く観察すると豆が膨らむと同時にセンターカットの部分から煙が出るのを見ることが出来ます。よく膨らんだ豆に雑味が少ないのは熱化学反応が十分に行われたという理由だけではなく、1ハゼの時に雑味の成分が煙となって一気に放出されるのかも知れません。 1ハゼは概ね2分位で終了するのが目安です。 一気に1ハゼが終了してしまう場合は大抵火力が強すぎ、だらだらといつまでも続く場合は焼きムラが出ていると予想されます。 ※1ハゼは適切に焙煎できているか一つの重要な目安となりますが、音がしないからといって1ハゼが起こらなかったと判断することはできません。 |
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焙 煎 度 合 い と 味 の 調 整 |
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1ハゼが終了した段階がほぼミディアムローストです。通常、酸味はかなり強めです。 この後、更に焙煎を続け、味の調整をします。焼きムラを防ぎ、また急激な温度上昇によって熱化学変化が不十分になるのを防ぐ※ため、少し熱源から遠ざけます。 ※熱化学変化というのは特定の温度(圧力も関係しますが)に達した瞬間に始まり、瞬間に終了するものではなく、反応の種類、圧力などにより特定の時間が掛かる為です
浅めのローストで仕上げる場合は少し弱目の火力でローストを遅らせ、熱化学変化を必要十分に起こさせます。 逆にフレンチローストなどの深煎りにする場合は時間の経過による成分の損失を防ぐ為、少し強めの火力でローストを進ませます。 その後ピチピチという1ハゼより高音で小さな音がし始めます。これが2ハゼで、2ハゼが起こり始めた辺りがシティーローストとなり、最も無難なロースト具合になります。 なお、1ハゼ終了と2ハゼ開始の中間くらいがハイローストとなり、程よい酸味を生かしたロースト具合になります。 シティーローストで焼き上げる場合、火力の目安としては1ハゼ終了から2ハゼ開始まで約4分前後であれば大きな失敗はありません。2分を切るようですと酸味が多めに残り、雑味も出る場合があります(一概には言えませんが) |
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終 了 |
好みのロースト具合になったら火から外し、すばやく冷却します。ドライヤーの冷風を使うと便利です。 この際もたもたしていると焙煎の度合いが進んでしまいますので気をつけてください。 また、急激に冷却することによって豆の表面が締まり、日持ちのする珈琲豆になります。 焙烙や空き缶など、そのままでは冷却するのに適さないものの場合はすばやくザルなどに移してから冷風を当ててください。 焙煎後は辺りにチャフが飛び散っています。家族から非難されないようお気をつけください(笑) |
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焙 煎 後 は ・ ・ ・ |
焙煎が終わったら豆の重量を測ってみましょう。途中手網からこぼれてしまうものもあるかも知れませんが、概ね85%前後の重量になっていると思います。 豆の種類や生豆の水分量によっても違ってきますので一概には言えませんが、シティーローストまで焼き上げた際、生豆の88%を超える重さがあった場合は恐らく強い雑味がする筈です。 逆にカラカラで軽すぎる場合は味気ないものになっている可能性が高いです。 焼きあがった豆は再度ハンドピックし、焼きムラのある豆などを取り除きます。 適切にローストできているか豆を割って確認してみましょう。 指で挟んで簡単に粉々に砕けるようでは熱を加えすぎです。ゴリっとした感じがするものは火力不足と考えることが出来ます。 割った豆は断面をチェックしてみましょう。大抵、中心部の方が色が濃く見えますが、外側と中心部の色が違いすぎる場合は後半時間を掛け過ぎたと考えられます。この場合は舌の奥に残る苦味が出るパターンです。 ※豆の外側と中心部では組成が違いますので、均一の色にならなくてもあまり気にしないでください。 断面の感じが程よい粗さであれば焙煎は良好だと思います。
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※一番外側(外皮)と内側(内皮)の真ん中、うっすらと黒い筋が通っているところが豆の『中心部』です(写真では右下にくっきりとラインが見えます) この程度の色の違いであれば直火式の場合さほど問題はないと思います。 なお、中央に見える薄茶色のもがシルバースキンと呼ばれるもので、珈琲を淹れる際、渋みの元になると言われていますが、通常気にする必要はありません。 |
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お ま け |
百均で売っていたゴマ煎り器で焙煎してみました。 容量が小さく高さがないため豆の上下を入れ替えるのが難しいので、一度に無理なく焙煎できる量はカリタメジャースプーン1杯程度です。 底と側面が鉄板であるため、手網とは熱の加え方が少々変わってきます。火力は中火と弱火の中間位です。高温の酸化雰囲気や遠赤外線を効率よく利用することが出来ないため、セラミックコーティングの焼き網は使用しません。 |
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初めに弱火(熱源から離して)で蒸らしをするところは一緒ですが、手網と違い火力の調整にタイムラグが出ますので、その辺りを考慮して焙煎を行います。 熱の伝わり方は金属に触れている部分からの伝熱がメインになるため、手網以上に振る手を休めることが出来ません。またこの器の大きさでは蓋を外して焙煎するのは困難なので、焼き色を見分けるのも難しいです。 ※空き缶などの高さのある容器の場合、1ハゼ以降の排気が阻害される可能性もあります。1ハゼ以降の豆は一種の励起状態(熱エネルギーにより反応が起こりやすい状態)にあると考えられますので、この状態では揮発性物質の排出が盛んな一方、排出された物質が再び豆の内部に取り込まれる可能性が高いです。排気の状態が悪い焙煎、所謂「煙ごもり」の場合、嫌な苦味が出て甘みや香りが著しく減少してしまうので注意したほうが良いかも知れません。 通常、上部が十分な開放状態にある容器では煙がこもるということは考えにくいのですが、空き缶に穴を開けるなどの工夫をしてみるのも面白いかもしれません。 出来上がった珈琲豆は少々煎りムラが多いものの、それなりに良好でした。今回は焙煎時間が短めだったので強めの酸味が出てしまいましたが、その辺りを考慮しても手網に比べ豆の個性が出やすいと感じました。送られてきたサンプルの生豆をローストするのにはいいかも知れません。 百均のゴマ煎り器を持ってオートキャンプなどに出掛け、登山用コンロ使いコーヒーを焙煎するのも面白いかも。風流があると見られるか、マニアックと見られるか、それとも只の変なやつと見られるか(笑) |
久しぶりに手網焙煎をしましたが、原点を見るようで面白かったです。さて、お待ちかね(?)の試飲の結果ですが、結構美味しかったです。片手にカメラを持ち、一人で写真を撮りながらの焙煎で煎りムラがあった割には上出来だと思いました。
そこで試しに焙煎機でローストしたコロンビアと飲み比べてみたら・ ・ ・ 、うーん、やっぱり焙煎機でローストしたものの方が明らかに上でした(^-^;
(そうでなければ困りますが)
でも、手網焙煎は出来上がった珈琲豆だけでなく過程も楽しめます。思い入れが入る分より美味しく感じますね。もちろん上手に焙煎したものは自家焙煎珈琲店顔負けの珈琲になります。趣味でやっている方の中には『その辺の珈琲が飲めなくなった』という方もいらっしゃいます(笑)
商売上、そういう方が増えすぎるのも困るのですが(汗)、興味を持たれた方は是非チャレンジしてください。
※なお、コーヒーの生豆は当店にご来店いただければハンドピックしていないものを100g単位で焼き豆の半分の値段でお譲りします。どうぞお気軽にご利用ください。
Cafe Gojuのネットショッピングでも生豆をお買い求めいただけるように致しました。当店店頭で購入するよりも単価は安くなります。(追:2006/12/11)
2005/01/17 | : | タグ及びスタイルの変更 |
2004/03/24 | : | 新規作成 |